MOIマッチング(慣性モーメント合わせ)

 近年になり、慣性モーメント(Moment Of Iinertia)という用語が色々な場面で使われるようになりました。回転するものなら何にでも応用が効くらしく、工業分野のみならずテニス、バトミントン、野球、自転車などといったスポーツ分野での応用も増えています。 ゴルフも例外ではなくカタログにも登場しはじめるなど、注目度が上がっています。 一つの流行と言えなくもないのですが、ゴルフの場合は古くから注目されていたので、単なる はやり とは一線を画している気がします。

 50年程前に発明された画期的なPINGパターの登場により、周辺重量配分による高慣性モーメントヘッドの有効性が認められました。発売当初は従来のパターとは異質なデザインだったので、物議をかもしたようですが、トーナメントで使用され優勝するなど、実績として認知されるようなると、一気に広まりました。今では、パターの代表的な形状の一つとして、違和感など微塵も感じないほどに普及しています。

 パターで一躍脚光を浴びた慣性モーメントですが、ウッドヘッドの素材として チタン が採用されるようになり再び脚光をあびるようになりました。

 ヘッドの大型化 = 慣性モーメントの増大


 という図式で、多くのメリットを持つといわれる大型ヘッドの開発競争に拍車がかかりました。ヘッドはどんどん大型化し、ついには体積と慣性モーメントに対して制限が設けられるようにまでなったのは、ご存知の通りです。

 このような背景から、ヘッドのスペックとして重要視されるようになった慣性モーメントですが、6〜7年ほど前からでしょうか、クラブとしての慣性モーメントについても論じられるようになってきました。いろいろな部分で回転運動が伴うゴルフと慣性モーメントは関係が深いようです。

 今回、ご紹介するMOIマッチングというのは、ヘッド単体のものではなく、クラブとしての慣性モーメントのことです。個々のクラブが持っている異なる慣性モーメントを一定の手順(方法)で揃えることで、クラブの使いやすさ(振りやすさ)を向上させる為に考案されました。


慣性モーメントとは
 慣性モーメントを広辞苑で調べると次のようになります。
<回転運動における剛体の慣性の大きさを表す量。質量が回転軸から遠くに分布しているほど大きい。慣性能率>
なんだか解ったような解らないような内容です。WEB上に、もう少し解りやすい定義がありました。

慣性モーメント(Moment of inertia)あるいは慣性能率とは、物体の回転のしにくさをあらわす量である。もっと正確に言えば回転運動の変化(回りだす、止まる)のしにくさをあらわす。質量のモーメントとしてあらわされる。(Wikipediaより)

 この定義から推測すると、慣性モーメントが大きいクラブというのは ブレに強く、スイングの安定性に効果がありそうです。逆に慣性モーメントの小さいクラブというのは 動かしやすさから、ヘッドスピードを上げるには好都合に感じます。

 ゴルフクラブに求める重要な要素が 【飛距離と安定性】 だとするならば、相反する要素を求める事になります。どちらかを優先させると一方が犠牲になる・・・しかし、どちらかを取らなければならない・・・といった究極の選択になった場合は悩みどころです。

 「振り切れる範囲であれば重いクラブが良い」

 この話の中には安定性を求めているような雰囲気を感じます。
一方、

 「コントロール(制御)できる範囲であれば、軽いクラブが良い」

 こちらなどは飛距離も捨てがたいといった思惑を感じます。
まぁ、この問題はゴルファーにとって永遠のテーマではあります。


スイングバランス VS. MOIマッチング
 昔から使われてきたスイングバランスは、この問題を解決する手段として長い間、活用されてきました。考案されたのは90年ほど前です。
 慣性モーメント自体の存在は、当時から知られていたはずですが、計測技術が未発達であり、直接計測するのは困難だったであろう事は容易に想像できます。
 そこで、計測が簡単な 力のモーメント を応用したバランス理論を用いて、その代用値としたのは自然であったように思いますし、画期的な事だったことでしょう。
 スイングバランスが現在でもクラブの重要な指標として活用され続けている事を考えると、とても優れた代用値である(あった)といえるのではないでしょうか。

 優れているとはいえ、代用値であるがゆえの問題もあります。いくつか簡単な例でご紹介します。

1.軽量のグリップに交換するとバランス値が上がる。

 軽量のグリップに交換した場合、総重量が軽くなるのにバランス値は増加してしまいます。実際にクラブをスイングすると、確かにヘッドの効き具合が増すような気もしますが、総重量が減り、手元が軽くなっているので、数値ほど重くなったという感覚は感じません。

2.バランス計の支点の位置に重量物(おもり)を付加してもバランス値は変わらない。

 この手法は、バランスを変えずにクラブの重量だけを増やすという目的で行われることがあります。しかし、例えば 500g のおもりを付けたとします。すると、どう考えても重いクラブになってしまうのにバランス値は変化しません。D0 は D0 のクラブということになります。これではちょっと変です。

 以上の話はバランス理論の欠点として有名ですが、これら以外にもシャフトの重量の幅が広くなったことや、クラブのレングスが長くなった事でいろいろな欠点が浮かび上がってきています。

MOIスケールは直接、慣性モーメントを計測するので、これらの欠点はありません。1のケースでは軽量グリップの分だけ数値は下がりますし、2のケースでは支点に付けたおもりの分だけ数値が上がります。こちらのほうが自然ですし、実際のスイングの感覚ともマッチしています。

 なにやら良い事尽くめの感がありますが、欠点といいますか難点もあります。

 それは、現在のクラブの部品がスイングバランス理論をベースに作られているので、MOI計で計測すると とんでもない数値 になってしまう点と、そのままでは調整が困難なことも難点です。
 また、これまでに無い全く新しい指標なので、バックデータは皆無といえます。したがって、各ゴルファj−に適正な(標準的な)慣性モーメント値というのはありません。
 どれくらいの値が良いのか?とか、ウッドやユーティリティクラブ、アイアンなどタイプの違うヘッドでの数値をどうするのか? また、シャフトの重量が違う場合はどうするのか?などなど、今後はデータを集めていく必要があります。

 ☆   ☆   ☆

 今のところ、バランス理論をベースに設計された各パーツのままでは調整が困難だという難点はあるものの、非常に優れた面があるのは事実ですし、「使える」という確信に近い感触も得ています。
  今後、多くの事例を重ねることで最適な慣性モーメント値に近づける事が可能になった際には、【飛距離と安定性】という相反する要素を高次元でバランスさせたクラブを作ることが出来るのではないかと期待しています。
 個人的にですが、将来、このメソッドが普及し、MOIjマッチングに基づいた設計のパーツが作られていくものと憶測しています。

 以上、MOIマッチングのさわりの部分だけご紹介しました。具体的な数値を掲載すればもう少しご理解いただけると思いますので、次回は現状のクラブを測定したらどうなるかという点をご紹介いたします。


2008-9-21