(注)キャリブレーションスティックの不具合によりMOI計測値の修正を行いました。
                           (ページの修正日 2012−10−30)

MOIマッチング つづき

 前回はMOIマッチングの概略についてでした。今回は実際のクラブがどのような値を持っているか紹介いたします。

 最初にMOIスケール(計測器)について説明させて頂きます。
当店で使用しているMOIスケールは、米国の Technorama 社 の MOIスケールです。日本ではあまりなじみのない会社ですが、ヘッドの反発係数を計測する装置(Pendulum Tester)やヘッド単体でのMOIを計測する装置も開発しているほど、高い技術力を持つ会社です。
 これら以外にも振動数計やセンターフレックスゲージ(シャフトの太さ補正が可能)、ヘッドの重心位置を3次元で計測する装置なども開発しています。



 このモデルはMOIスケールとしては、第2世代の製品になります。最初の製品よりも計測にかかる時間や手間が短縮されているそうです。最近になり日本国内でも販売されるようになったので、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。

 計測方法はとても簡単です。クラブを乗せたアームが数回前後すると自動的に数値が表示されます。計測される数値は再現性が高く、説明書に掲載されている公差から外れる事はほとんどありません。測定する上での注意点としては、機械のわずかな傾きや、かすかな風でも値が変化するほど敏感な点です。(エアコンの微風や窓から入る微風でも誤動作するほどです。)

 動作はグリップエンド側の支点を中心としてアームとクラブが前後に動いている間に計測が行われます。振り子の等速度運動の周期の変化量を内部で計算しているのかもしれません。

 ☆   ☆   ☆

 計測した数値を紹介する前に、もう一つ紹介しておかなければならない肝心な事がありました・・・(汗)
MOI の数値についてです。

 値の単位には Kg・c㎡ が使われています。ヘッド単体のMOIの場合は g・c㎡ ですが、クラブの場合はヘッドよりも重量が重い事と、重心までの距離が長い関係でヘッドの1000倍の単位が使われています。
 単位のうしろの c㎡ は面積で使用されるのと同じ表記ですが、面積を表している訳ではありません。重心までの距離の2乗という意味で使われています。

   MOI = 

   m : おもりの重量(Kg)
   r  : 回転中心から重心までの距離(cm) 

 たとえば、2000 Kg・c㎡ という値であれば、中心から100cm離れた位置に0.2Kg(200g)の質量があるのと等価になる、と考えればイメージしやすいと思います。
図にするとこのような感じです。 (注)おもりがついている棒は重量が無いものとしています。

 MOI = 0.2 x 100 x 100 = 2000 Kg・c㎡




 実際のクラブはグリップ、シャフト、ヘッドの複合体ですので、複雑な計算が必要になるようです。
計測自体の簡便さから考えると、計測値は近似値だと思いますが、使う側にとっては扱いやすさがなにより重要です。近似値とはいえ便利なものが出来たとものだ感心してしまいます。


 では、いよいよ計測値の紹介に入ります。まず、3本のドライバーを計測してみます。


A B C
クラブ カーボンシャフト
メタルヘッド
スチールシャフト
パーシモンヘッド
軽量カーボン
チタンヘッド
総重量 318.4g 369.2g 287.6g
レングス 45インチ 43インチ 45インチ
スイングバランス
(14インチ)
D0 D0 D2
MOI 2786.5 Kg・c㎡ 2838.0 Kg・c㎡ 2756.4 Kg・c㎡
スイングした感覚 中間 かなり重い 軽い

 B のスチールシャフトのクラブは重量が重いので、Aと同じバランスでレングスが短いにもかかわらず、かなり大きな値になっています。また、軽量カーボンのクラブ C はバランス値が2ポイントも重くなっていますが、MOI 値は最も小さくなっています。

 スイングした時の各クラブの相対的な感覚とMOI 値の違いは、ピッタリマッチしています。この面ではスイングバランスよりも実体を反映していて優れているといえます。
 長さと重さが異なるような場合(特に ドライバーとフェアウェイウッドやアイアンなど)の比較には有効である可能性が予測できます。

 次にアイアンの値をご覧下さい。シャフトはダイナミックゴールドS400 レングスは 3番 で 38.5インチ、以下 0.5インチステップ(9、PW,SWは同じ長さ)です。

3 4 5 6 7 8 9 PW SW
バランス D0.0 D0.2 D0.5 D1.2 D1.0 D1.5 D2.0 D2.5 D4.0
MOI 2684.8 2672.7 2667.3 2666.9 2647.3 2644.0 2625.7 2652.3 2673.1

 重いはずの DGS400のアイアン ですが、前述のドライバーのMOI 値と比較すると、随分軽いことになります。これまではアイアンのほうが 重いはず という思い込みを持ってスイングしていたので気づきませんでしたが、この数字を見てからは、なんだかアイアンが軽く感じられるようになりました。人間の感覚に及ぼす先入観の影響の大きさを感じます(笑)

 先日、普段使っているドライバー(B)の MOI と、このアイアンセットのMOI を合わせてラウンドしてみました。8ヶ月ぶりのラウンドだったにもかかわらず、1ラウンド目までは良い感触でした。(スコアは除く)
 しかし、1.5ラウンド目に入ると、久しぶりのラウンドだった為か、体中に疲労感が出てしまい、全部のクラブが重く感じました。これは、私自身の体力の衰えのせいだと思います。

 1ラウンド目までの感じは良い感触だったので、帰宅後に再度調整を行ってみました。
今度は A のドライバーの値に近づけるよう調整をし直しました。その結果、値は以下のようになりました。
(数字の細かい差には特別な意味はありません、おおまかな調整です)

3 4 5 6 7 8 9 PW SW
バランス D4.6 D5.6 D6.1 D6.6 D7.1 D7.3 D8.2 D7.9 D8.1
MOI 2780.6 2782.7 2782.2 2783.1 2783.9 2782.4 2784.6 2781.4 2781.8

 再調整前のSWのバランス値が E2 でしたので、大分、軽くなりました(笑)
軽くなったとはいえ通常のスイングバランスの概念がらいえば とんでもないバランスになっています。普段であれば絶対にこのような調整にはできません・・・・。

 不思議に思われるかもしれませんが、こんなとんでもないバランスでもスイングした時にそれほど重さは感じません。これはMOIの数字が先入観として頭に入っている為かもしれません。信じるものは救われる・・・という状態なのでしょうか? もともと、重いクラブが好きな私の嗜好が影響している可能性も否定できません。
 いまのところ、練習場では全く違和感なく使えています。ゴルフクラブを長い間振らなかった割には好調といえます(練習場限定 笑)。このままの状態で少なくとも半年程度は使って、影響などを確認したいと思います。違和感がないなんて・・・信じられないと思いますが・・・。

 私の感覚だけではあてにならないので、もう一例、紹介したいと思います。お客様にご協力をいただき、MOI調整を行わせて頂いた例です。(実ラウンドはお客様のほうが先です)


 お客様のセットは最近買い換えたばかりだそうで、ウッド系(3本)が軽く感じるという感想をお持ちでした。番手の構成とスペックは次のような状況でした。装着されているシャフトは
1Wと3Wは 60g 台のカーボンシャフト
5Wは    70g 台のカーボンシャフト
アイアンは 120g台 のスチールシャフト(DGS200) です。
(各クラブはそれぞれのメーカー出荷のままの状態)

1W 3W 5W 3 4 5 6 7 8 9 P A S
重量 314.0 326.4 335.0 416.0 420.8 428.6 433.4 441.8 447.6 445.2 463.2 466.4 471.4
バランス D2.7 D2.9 D2.7 D1.0 D1.3 D2.15 D1.1 D1.65 D1.55 D1.65 D1..65 D1.1 D2.55
MOI 2859.8 2802.6 2784.7 2720.2 2698.3 2709.5 2676.9 2669.3 2662.7 2652.3 2644.8 2635.3 2657.3

 雑誌などで紹介されている、一般的に良いとされるスペックに近いセットです。よく考えられたセットメークアップだと思います。

 調整に際しては、間近に迫ったラウンド予定があり、練習をして習熟度を上げるような時間的余裕がありませんでしたので、スコアへの影響を心配し極端な調整は控えるようにしました。特にスコアへの影響が大きいドライバーと、ただでさえ打つのが難しい長手側の3,4,5アイアンは現状のまま調整しないほうが無難だと考え、調整を差し控えました。また、調整量についても前例よりもかなり少なめな調整になっています。
(注)同時にグリップ交換も行っているので、MOI未調整の番手も値が多少変化しています。
5番アイアンのバランス値が乖離していたのはグリップ交換で多少緩和しました。

1W 3W 5W 3 4 5 6 7 8 9 P A S
バランス D2.3 D5.1 D4.8 D1.3 D1.3 D1.9 D3.5 D3.5 D3.6 D4.4 D4.3 D4.3 D4.0
MOI 2863.7 2867.0 2846.4 2721.7 2703.7 2709.1 2718.8 2714.6 2704.9 2709.9 2713.7 2702.8 2689.0
調整の
有無


 調整後の値を計測してから、今後発生するであろう影響として、まず頭に浮かんだのはショートアイアン側になるほど「重過ぎる」と感じるかもしれないというものでした。また、フェアウェイウッドに関しても、ドライバーとのバランス値の乖離により 「重過ぎる」 と感じたとしても、おかしくない値であり、こちらも悪影響の可能性を懸念していました。
 楽しいはずのラウンドが悲惨な状況になってしまうのを心配して、これらの点をお客様には伝えておきました。もし、ラウンド直前の練習で不都合があった場合は躊躇せず、元に戻してもらうようにもお願いしました。(元に戻せるよう外部からの調整を実施)

以下は、ラウンド後にお客様からいただいたレポートの要約です。

/_/_/_/_/_/_  ここから /_/_/_/_/_

 まず僕なりに感じたフィーリング(あてになりません)、思いついた感想です。

・ ウェッジ、アイアン、FWともバランスによる違和感は無い。
・ ヘッドが感じやすくフルショットで芯を捉えたときは各番手とも弾道が少し高くなり、5y(0.5番手)ほど距離が伸びた。
・ シャフトが少し柔らかく感じ、しなるのでアイアンは振らなくても普段の距離がでる
・アイアンで振りに行くとダフリ気味になるような気がする。(練習場では気が付かなかった)

フェアウェイもオールベント芝だったのでターフが綺麗に取れて解かりやすかったのですが
インパクトが厚い良い手ごたえの時はターフが深くフォローで少し抜けが悪く感じ
(でも距離は飛びすぎてオーバーが多い)少し薄いかなと思ったときに薄く長く綺麗なターフが
とれた。(もともと上から入れすぎるのでスウィングのせいか?)

・ FW3/5はさらに柔らかく感じ、しなり戻りのタイミングが違い大きなミスにはならなかったが、狙いと逆玉が出た。(距離はアイアンと同じく5〜10y伸びている)
・ VスチールのFWは優しいヘッドでもともと玉が上がりやすい分、玉が弱いと感じていましたが、さらに弾道が高くなったのに昨日はアゲインストでも風に負けない強い玉になったように感じました。
・ アイアンで薄いあたりのときに飛距離の落ちが少なくなった。
・ ショート、ミドルアイアンはいままで多かった引っ掛けのミスがでず、グリーン左に外すことは一度も無かった。ミスするときは右にでることが多かった。
・ 無調整の4・5番は逆に一生懸命振らないと・・・と感じ、さらになぜか何時もの高さがでず低めの弾道になった? (ミズノ3Iは未使用)
・ ウェッジでのアプローチは少しスピン量が減ったような気が???僕レベルの腕では日によって打ち方やフィーリングが変わるので??ですが、止まるなと思った玉がスピンが解けてランが多くなってしまうことがあった。フェースを開いてスピンをかけるような業がないのでスクウェアにセットしてのピッチエンドランでも普段の感覚より(強く打てないというか)キャリーを少なくしないと・・・

ラウンド前、クラブを受け取ったその足で行った練習場でのフィーリングもだいたい同じようなものでした。

・ 未調整のロングアイアンが難しく感じる。
・ FWは続けて打つと良いが、アイアンからもちかえるとしなり戻りのタイミングに少し戸惑う。
タイミングを掴むと距離が伸びる。
・ ドライバーは以前にまして軽く感じ、さらにシャフトが柔らかく感じる。

このところの雨のせいでフェアウェイが柔らかく、ランが0という状態だったので距離が欲しくてドライバーを振りにいっていたせいもあり、ドライバーが全くダメでした。


僕的には許容範囲のミスしかなかったし、OB以外でスコアを崩しているのはアプローチと3パットだったから今になって冷静に見直すとティーショット以降は非常に良いラウンドだったみたいです。(汗)
というよりセカンド以降は最近のベストラウンドでした。(笑)

アイアンはしばらくこのまま使ってみます。

/_/_/_/_/_/_  ここまで /_/_/_/_/_

 大変詳細なレポートを頂きました。未知の調整に果敢にチャレンジしていただいたばかりか、このような詳しいレポートまで頂き、感謝・感謝です♪ 今後の為の資料として保存させていただいております。

 報告を頂く前まで懸念していた、ショート番手とFWが重すぎるのではないかという点は払拭され、むしろ未調整の番手が気になったとの事でした。まずはホッと一安心しました。
 その後、お客様がご自身で未調整の番手のバランス調整を実施したそうです。レポートにもありますように、しばらくの期間、使っていただけるそうですので今後の成行きを期待しています。


現時点での考察(らしきもの)
 この計測器で測定される値はシャフトがほとんどしならない状態(剛体に近い?)での値になります。実際のクラブではスイング中にシャフトが複雑にしなりますので、重心までの距離(位置)やモーメントの方向が異なることが考えられます。また、スイング中と計測中では重力線に対するクラブの角度も違います。それらを含めた誤差がどれくらいなのかは不明です。更に、スイング中のヘッドスピードやコッキングのリリースの仕方などでも変化するであろう、いろいろな不確定要素を考えると、この計測器ですべての問題が解決するなどと考える事は早計です。
 また、人間の側に存在する慣性モーメント・・・代表的には背骨を中心としたもの、肩を中心としたもの、手首を中心としたものなどは、体力や運動能力の違いから個人で大きく異なるはずです。それらと、クラブの慣性モーメントの関係も手付かずの課題です。まだまだ道のりは長そうです。

 しかし、これまでになかった測定値が得られる点と従来の概念と異なる視点からのアプローチが可能であるという点から、有効な計測器&メソッドだと考えています。今後、いろいろな面から数多くのデータを収集して、検討していきたいと思っています。

 余談になりますが、個人的には、この計器の動作原理に非常〜に興味があります。内部まで分解してみたいのですが、保障期間中なので控えています。頃合をみて分解したいと思っています(笑)。

 尚、このテーマについては、今後も折を見て紹介してまいたいと思っております。
2008-9-24
2012-10-30 キャリブレーションスティックのラベル誤記により、MOI値を修正。