長さ (レングス Length )

 クラブの長さはゴルフルールで上限と下限が規定されています。ルールの範囲内であれば自由に選ぶことが可能です。ドライバーのように長いものから、短いウェッジ類まで様々です。自由とはいえ、機能と使いやすさという側面から、おのずと、ある程度の長さに集約されてきます。飛ばす事が重要なドライバーの場合、43インチから46インチ程の範囲になるでしょうか。

一般に販売されているドライバーの場合は、いろいろな理由からもう少し狭い範囲になっています。店に並んでいるドライバーは45インチ前後が主流のようです。

さて、ここで質問があります。通常、販売されている45インチのドライバーの長さは何インチですか?

「はぁ、バカな事を聞くな」・・・と怒られそうですが、これはまじめな質問です。

約 44.75インチ〜45.5インチ (当店基準での実測値) のクラブが45インチとして販売されています。

45インチという表示で販売されていてもその長さは一定ではありません。 なぜこんなに違うのか?というと、クラブの長さを測るための規格・基準がないのが原因といわれています。「基準がない」 と、いうと語弊があるかもしれません。別の表現では 「測り方がいろいろある」 ということになります(笑)。 

長さの測り方の主な方法をざっと数えてみます。
ヘッド側の基準が 6種類 、グリップ側の基準が 3種類 それぞれの組み合わせを考えると 
6 X 3 = 18 種類   微妙な違いを含めると更に増えます。(2倍程度)
工房の仕事をしていると、この長さに関する誤解から、いろいろ困ったことが起こります。(後述)

長年に渡って作られ続けているクラブですが、JIS に代表されるような公的な規格がありません。誰もが(メーカー各社)納得して採用することが可能な基準を作ることが難しいようです。その結果、長さ はクラブを作る側の基準で決めているのが実情です。当店でも基準とする測り方を定めております。

(注) 日本ゴルフ用品協会という団体で策定した基準が 「あるらしい」 のですが、守られていない、という実感を持っています。また、同協会のHPを閲覧しても、基準などは告知していないようですので、ここでは ない ものとして書いています。尚、統一するには、厄介な問題がいろいろあり、決めるのが難しいと、書籍などでは解説されています。
米国製品に関しては、ASTM(米国材料試験協会;American Society for Testing and Materials)の規格に沿って製品が作られていると考えられる計測結果を得ています。(例外もあります)また、日本国産の製品と比較して、長さの点でのメーカー毎の違いが少ない点を考え併せると、公的な基準の必要性を感じています。


では、具体的に測定方法の一部をご紹介いたします。どの方法が良くて、どれが悪いということではありません。それぞれに一長一短があります。
名称については俗称であり、正式名称ではありません。(正式名があるのかどうかは調査中です)

(注) 説明図がかなりアバウトですが、概略ということでご容赦ください(汗)

まず、計測の一方の起点であるヘッド側の計測方法から紹介します。
1. ヒールエンド基準
トラディショナルな方法です。図のようにヘッドのソールとネックからの線の部分の境目(かど)を基準にします。この方法で計測される値は狂いが少なく、良い方法だった(過去形)のですが、ソールの丸いウッドやアイアンが主流になるにつれ、境目がどこなのか見当がつかず、計測できないケースが増えつつあります。


ソールとネックからの線の境目のないヘッドの場合、無理やり測ろうとしても、その測り方によって、値に誤差が生じます。金属面と塗装面との境目を測ることも一つの方法ですが、同じヘッドでも塗装の位置は、ヘッド毎に微妙に違うので値が一定になりません。
(注)測定が困難なヘッドの数は多くはないですが、少なくもないといったところです。


2. ソール線の交点基準
前述のヒールエンド基準での計測方法はヘッドの最下点よりも上部で計測される事になるので、実際に床に置いた状態で測定すると、もっと長く計測されます。この欠点を補えるのがソール線との交点を基準にする方法です。「真の長さ」 と考えられますが、この方法にも欠点があります。
 計測する際のソール線が 実在しない線 でありシャフト軸線との平行線も実在しない線だからです。更に、これら2つの線が交差する場所、つまり計測の基準になる交差点は空間上になってしまいます。

したがって物理的には実在しない 点 が基準になります。このため計測誤差が生まれやすい側面があります。この空間に出来る基準点を機械的に作り出して計測することが可能な器具(メジャー)が販売されています。 True Measure (真の定規)という一般名で複数のメーカーから販売されています。
ただ、厳密には計測時のシャフトの傾きやヒールの出っ張ったヘッドでの誤差が考慮されていないので、True という名前はちょっと大げさかもしれません。このメジャーでの計測値の再現性は比較的、高いです。当店では長さの誤差を補完する為に2種類の計測を行っていますが、そのうちの一つに採用しています。

3、4,5. シャフト線延長線とソールの交点(3種類)
この方法は計測の誤差が少ないのが利点です。誰が計測してもほぼ同じ値になります。欠点はソールの形状(丸みや段差)の影響が強く出ることです。この計測方法で同じ長さになった、ソール形状の違う2本のクラブを床に置いて比べると、明らかに違う長さになっていることがあります。
丸みの強いソールや段差のあるソールを持つクラブの計測には注意が必要となります。

当店での、もうひとつの計測方法は、このシャフト中心とソールの接点を基準にしています。

ソールとの交点をシャフトからの中心線とする方法とは別にシャフトの側面の延長線で計測する方法もあります。図のようにシャフトのどちらかの側の交点を、基点とします。ソールの形状の影響を受けるのは中心線での方法と同様です。



6. 床置き
簡単に測れそうに思えますが、計測がとても難しい方法です。難しいという意味は値の再現性が低いということです。習熟すれば1/8インチ程度の誤差で測定可能だと思います。
精度は測定するクラブの置き方で変化します。アップライトに置くと長く、フラットに置くと短く計測されます。

図は用意してませんが、測り方は、クラブを床に置き、スケールをシャフトの下側に沿わせて計測します。クラブの置き方が悪いと、半インチ程度の誤差が出ます。また、この方法はスケールの厚さ分の誤差が内包されます。
クラブの、おおまかな長さを測るには手軽で便利な方法です。

7. 60度計測法
数年前のルール改正で長さの上限が決められた事は記憶に新しいと思います。
それまでのルールでは下限の長さだけ決められていました。上限については無制限だったのですが、この時から48インチが上限になっています。

上限を決める上で問題となるのは、長さを測る統一的な方法がないことです。これまで述べたように計測方法がいろいろある中、ルールに明記された方法は、従来とは違う新しい計測方法でした。

それが60度計測法と呼ばれている、この方法です。ルール上での長さの上限を判定する基準になっています。


ルールブックに記載された唯一の方法なので 正式 な測定方法といえます。他の番手のクラブもこの方法に統一してしまえば、長さの問題は 一件落着♪ となりそうですが、そうでもないのです。
 ルールギリギリのクラブに対して、規則に合致するかどうかの判定に用いるのであれば有効ですが、アイアンセットなどで問題が発生する恐れがあります。

通常のアイアンセット(3〜9)を例に簡単に説明します。
アイアンは0.5インチ刻みの長さで順に作られます。60度計測法を使って組み立てるとどうなるかといいますと・・・。

ライ角が60度の番手は従来とほぼ同じ長さ(ソール延長線基準)になります。しかし、60度以上のライ角を持つアイアンは従来の方法で測定して作られたアイアンよりも長くなります。(従来の60度以上のアイアンを60度法で測定すると短く測定されます)
逆に60度以下の番手は出来上がりが短くなります。それぞれ角度の差が60度から離れるに従って順次変化していきます。最終的には両端のクラブである 3番と9番で、その影響が最も強く出る事になります。3番と9番のライ角の差を仮に5度として計算すると、両端の番手では およそ 3/16インチ ほどの違いが出る事になります。

この程度の違いであれば、この方法で組み立てたとしてもクラブの機能自体には大きな影響はありません。しかし、この方法で組み立てたクラブを従来の方法で計測すると長さのピッチが揃わなくなります。事情を知らない人が測定した場合、 「ん???」 と疑問を持つことでしょう。

今後、この方法が一般化するかどうかは不明です。組み立て後の長さピッチが従来のものと異なる為です。細かい話になりますが、ヘッドの重量ピッチを設計の段階で変えるか、組み立て時の調整作業で対処する必要があります。また、シャフトのステップもわずかですが、ズレることになります。ルールぎりぎり(48インチ)のドライバーを作る場合以外での採用は、しばらく様子を見たいと思っています。


以上がヘッド側の基点の主なものです。これらの方法が考え出された背景は知るよしもありませんが、あえて推測すれば、時代によるクラブの形状の変化によって生まれたのではないかと考えられます。新しい形状のヘッドが出来るにつれ、考えられてきた・・・必要は発明の母というところでしょうか(笑)
これらの方法の亜流も含めると、まだまだありますがひとまず終えます・・・(汗)
続いてグリップ側の説明になります。こちらは形状が単純なだけに明快です。

1. グリップエンド基準
グリップの中心の後端部を計測します。グリップの後端の形状により計測される値が変化します。

2. グリップエッジ基準
グリップの後端ではなくエッジの部分を基準にします。1と同様グリップの形状によって長さが変化します。

3. シャフトエンド基準
シャフトにグリップを取り付けない状態のシャフトの後端を基準にします。実際のクラブはグリップのエンド部(キャップ部)の分だけ長くなります。

以上、長くなりましたが、一般的な計測方法でした。

尚、パターの長さの計測方法はこれまでとは、別の方法がルールブックに記載されています。
 パターの長さの測定はグリップの上端からクラブのソールまでをシャフトの軸線(またはその真っ直ぐな延長線)に沿って測る。

文章だと分かり難いですね。それと、グリップ側の位置は明記してありますが、ソールのどこで測るかは、書かれていません。個人的には、既出の説明の中の3番の方法であると解釈していますが、別の解釈を生む余地はけっこうありそうです。 少々、意地悪なツッコミをいれてみます・・・。
「グリップの上端ってどこよ!」 
ルールブックには記述がありません。このあたりが基準を決める際の難しさの一端なのでしょうか・・・。

これで長さの説明が終わりました。なぜ長さについて詳しく説明をしているのか不思議に思われたかもしれません。しかし、下に書いたような事態が起こる可能性を考えると、ないがしろに出来ない問題なので書かせていただきました。

エーテーガビン という工房の オサジー という名のいうクラフトマンのところに、お客様から新しいドライバーの注文が入った場面を想定し、お話を作ってみました。

                        

 「今のクラブより 1/4インチ長くしたいから 45.25インチ で組み立ててくれ!」

このような注文はごく普通にあります。特段、変わった注文ではなさそうです。現在使っている45インチのクラブよりも飛ばしたいとの思惑で、45.25インチのクラブを新規に組み立ててほしい という内容です。ここまで読まれた方は、もうお気づきと思いますが・・・

【現在のクラブの長さ】 を、お客様がどのように認識されているかにより、組み立て後に問題が発生することになります。

お客様は45インチ表示のドライバーを持っています。当然、45インチ だと思っているのが普通です。しかし、この45インチという長さは エーテーガビン での計測ではありません。前述の通り、市販のクラブは長さに幅があります。

現在使っているドライバーがその場にあれば計測して説明できますが、当日、持ってきていない、または電話による遠隔地のお客様からの注文だったとすると、測ろうにもはかれません。

まずは、今のクラブを測定したいのがオサジーの本音であり、そうすべきなのですが、家に取りに帰る手間や配送の手間を考えると、”商機を失う可能性が高い・・・” そんな想いが頭の中をよぎります。悩みどころです。

 「長さを確認したいので、今、お使いのクラブを持ってきてください (送ってください)」 

などと、無理を承知でお願いしたとしても、納得していただけるかどうかは疑問です。お客様側の立場で考えれば、先ほどクラフトマンに伝えた ”今は45インチを使っている” という言葉を疑われた事になるからです。、気分が良いはずがありません。「45インチって言ったよね!」と、怒気を含んだ口調で返答されるのがオチです。

 「うむむ・・・」  オサジーは考えたあげく、運を天に任せて注文を受ける事にしました。
翌日から開始した作業の間中ずっと、神様に祈りをささげることになります。

 「どうか、今のクラブが45インチでありますように・・・」

数日後、45.25インチ の注文通りのクラブが完成します。お客様は満足そうに持ち帰ります。
家に到着すると、まず最初にやる事は?・・・ ご想像の通りだと思います。

お客様は出来上がったクラブがどれくらい長くなったのか?古いクラブと並べて比較します。
しかし、長くなっているはずの新しいクラブは、古いクラブよりも短いのです。

「・・・エッ、なにこれ・・・・・・・オサジーめぇ〜!!!」

    完

少々、大げさ過ぎる話かもしれませんが、日常的に起こりうる事例として書かせていただきました。

(注)この不幸な事例はフィクションです。実際に起きた話ではありません。


工房の仕事では悩ましい問題がたくさんあります。(工房に限ったことではありませんが…汗)

上手な注文方法 間違いのない工房活用法 ということにも繋がりますので、折に触れ紹介してまいります。

2007-5-2